星の弦 − はちみつ色の世代 1 −
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10月12日 水曜日
校門を出ていくらも行かないうちに、ぼくは後ろから大声でよび止められた。
「ちょっと待てや上野。おれもそっちから帰るから」
ぼくはしかたなく立ち止まってふり返った。ダクテンが早足でこっちへやって来る。
「あっ、じゃあぼくもそうする」
ミリまでがついて来る気らしい。かん高い声でそう言うと、いっしょにいた工藤と有吉のせなかをおしやるようにたたいた。そうしてふり返る二人にすばやく手をふると、小走りにダクテンを追いかけて来る。
ぼくはミリが追いつくのを待たないで、ダクテンとならんで歩き出した。
「終わったら教室で待っとってくれって言うたやろ」
「ああゴメン、わすれてた。それに今日は用事あるし……」
「もうちょっとくわしい事聞きたいんや、あの話」
ミリも追いついてきた。ダクテンの向こう側にならんで、のぞきこむようにこっちを見ている。二人とも、好奇心の強さではクラスで一、二を争うほどだ。
「聞きたいって言うんなら、もっとくわしく話すけど……」
「なんかやる気ないなあ。言い出したんは上野のほうやろ」
「やる気はあるよ。だから二人にそうだんしたんじゃないか。でも、あれはできるだけ秘密にしておきたいんだ。信じないやつに聞かれたら、バカにされるだけだろ? だから、これは、秘密だ」
最後はわざとささやくように言ってやった。すると二人はとたんに口をかたく結んで、ゆっくりとうなずいた。
こんな顔つきを見れば、二人とも本気なんだっていうのはよくわかる。けど、こうもおおげさに反応されると、ぼくのほうはかえってしらけてしまう。それにミリのまじめ顔っていうのは似合わないせいもあって、どことなくふざけているような感じがするし。
ぼくはますます不愉快な気分になった。昼休みのおしゃべりなミリに対する不満が、またわき上がってくる。
「だからミリ、学校ではぜったいしゃべらないでくれよ。まったくミリはおしゃべりなんだから」
「だいじょうぶ。いくらおしゃべりでも、しゃべっちゃいけない事まではしゃべらへんから」
「とにかく今のうち言っとくけど、これ以上だれにもしゃべるなよ。もう仲間をふやすつもりはないからな」
そう、これが一番の不満だった。ミリのやつ、その日のうちに工藤と有吉にしゃべってしまった。それがおもしろくなくて、さっきもついダクテンに言われた事をわすれたふりをして、さっさと帰って来てしまったんだ。
「なんで? おおぜいのほうがいろいろ調べるのもらくだと思うけどな」
「だから言っただろ、秘密にしときたいんだって。まったく、おれたち三人だけでやろうと思ってたのに……」
「あの二人の事か? あいつらなら仲間に入れてもへいきやろ。秘密を知ったって、だれにもバラしたりせえへんって」
ダクテンまでがあの二人の味方か。もうガックリきた。
「だって、ぜんぜん関係ないじゃないか。それに星の事なんかもきょうみないだろうし」
「ううん、そうでもないよ。毎週毎週欠かさずに……」
「それは星うらないだろ!」
「でも星は星。なっ」
まるで言い合いを楽しむみたいに、ミリは笑っている。大声で言い返してやっても、ちっともこたえないらしい。ぼくはだんだんおこる気にもならなくなってきた。
「それにユッコもヨッシーも、謎とか不思議な事とか大好きやし、力になると思うけどなあ」
そう言いながらミリは、ぼくがうなずくのを期待するように横からじいっと見ている。ミリの言う事もわかるけど、ぼくはじっと前を向いたままでいた。
しばらく話がとぎれた。
ミリは少しはなれて後ろを歩いて来る。ダクテンはいつまでも例の話に入らないせいで、ちょっとイライラしてるみたいだ。ぼくのほうも話し出すきっかけがつかめなくてソワソワしていると、たまりかねたようにダクテンが口を開いた。
「おれたちさ、今日おまえん家に行こうと思うんやけど、ええか?」
「んー、今日はだめなんだ。塾があるし」
「そうか……。ああ、じゃああの日からちょうど一週間になるんか? あれを見たんは塾の帰りって言うとったけど」
「うん」
「おれたちにうちあけようかどうしようか、一週間もまよっとったんか」
「……まあね」
ぼくは短く答えてうなずいた。
この二人なら、うたがったりバカにしたりしないで、本気で協力してくれる。ぼくは最初っからそう信じていた。だからほんとはすぐにもうちあけたかった。でもあんまりとっぴょうしもない出来事だから、ぼく自身なんだか現実と思えなくて、だからどうしても言えなかったんだ。
信用してなかったわけじゃないと、ダクテンに説明したい。いや、そんないいわけめいた事を言わなくたって、きっと彼ならわかってくれているだろう。だけど……。
「だけど、ミリはほんとなに考えてるのかわかんないよ、あいつにうちあけたのはまずかったかなあ」
「だってあいつが一番くわしいんやぞ。星の事はミリがたよりや」
「そうかもしれないけど、関係ないやつにまで勝手にしゃべるなんて」
「ハハ、そりゃもうしゃあないわ。しゃべってもうたんやから、あの二人も仲間に入れるしかないやろな。ま、これから五人でやっていこうや」
笑いながらダクテンは言った。ぼくにとっては笑い事じゃないよ。この二人以外のだれかを、それも女の子なんかを仲間に入れるなるなんて、考えもしなかった。
ぼくはふり返って、なやみのたねを植えつけてくれた張本人を見た。
ミリのやつはずいぶんはなれたところを、いっしんに足もとをみつめながらジグザグに歩いて来る。どうやらアスファルトに描かれた、小さな子どものらくがきをたどっているらしい。
「ハカセがまたなにか研究を始めたよ」
ぼくはダクテンと顔を見合わせ、あからさまにあきれ顔をしてみせてから声を立てずに笑った。
あいつはおかしな事にばっかり夢中になって、ほんとに子どもじみた感じがする。身長だって低いし、どう見たって五年生には見えない。まあ、一寸法師より小さい一ミリ法師というのは言いすぎだと思うけど。
「じゃあ今日はおれたち、ミリん家で本をかたっぱし調べてみるわ」
「そう。ゴメンな」
ぼくはダクテンのほうに向き直った。ダクテンは逆に体も大きいし、どことなく大人びていて、まるで中学生みたいだ。
こんなふうにまるで正反対のミリとダクテンとが、どうしてそんなに気が合うんだろう。ぼくはダクテンの、そのアダ名の由来になった左のほほにならぶホクロを見上げながら、ぼんやり考えた。
「じゃあな」
「ん、ああ、バーイ」
ダクテンは、らくがきをたどるのに夢中になってるミリをせきたてながら、もと来た道を引き返していった。ミリはいったんふり返ると、ぼくに向かってすばやく手をふった。
(10月5日 水曜日)
塾からの帰り道、ぼくは今日も寄り道をした。
家の近くに丘、というか小山があって、町で一番高いそのてっぺんには配水池がある。そこへ続く一本道は、小山をぐるりと囲むように半円を描いている。
ぼくはその坂道を自転車で、立ちこぎしながらゆっくりと登って行った。
体重をかけてペダルをふみこむと、ライトはいっとき明るくともり、すぐにゆっくり暗くなる。それを何度も何度もくり返し、目の前を照らす光はまるで脈うつようだ。
いつごろから、塾の帰りにライトをともすようになったかな。先月の始めはまだ明るかったのに、それが今ではこんなに暗い。
同じ時間でも、先月は夕方で今月は夜か。今ごろの季節ならあたりまえの事なのに、ふと夜が次第にふくれていくような思いにかられて、ぼくは脈うつ光を見ながら小さく身ぶるいした。
南に視界が開けたところで、ぼくは自転車を止めた。
見わたすと、もう町じゅうに明かりがともっている。西の空はまだうす明るいけれど、遠くの山もその上の鉄塔も、もう真っ黒いシルエットだ。
ぼくは自転車を降り、ガードレールに両手をついて空を見上げた。
最近理科で習ったせいか、それともミリの影響か、わざわざここまで来て星をながめるのが、塾帰りにライトをともすようになったころから習慣になってしまった。
天気さえよければ、ぼくはいつもここにやって来る。もちろん先週も……。
あれがつい一週間前の事だなんて、なんだか信じられない。そうかと思うと反対に、もう一週間もたったのかとおどろいてしまうくらい、ついさっきの事のような気もする。先週の夜空も、今日のこの空とまったく同じような空だったからだろう。
空はまだかすかに明るくて、星の光はたよりなくかぼそかった。もともと秋の星はどれもあんまり目立たない。ぼくは視線をおちつける場所をみつけあぐねて、いつまでも首をめぐらせていた。
不意に、ぼくがみつめていたその場所に、星が一つともった。星はそのまますべるように真っすぐ動いた。
あっ、流れ星! そう気がつくまでに少し時間がかかった。流れ星といえば流れてから目を向けるのがふつうで、みつめているまさにその場所から流れるなんて、考えられなかったからだ。
ぼくは流れ星を目で追った。よわよわしくまたたくまばらな星の中で、流れ星だけがひどく明るく、そして不自然にゆっくりなのでらくに追える。
ようやく冷静になったぼくは、その時になって初めて、なにかの音が辺りに広がるのに気がついた。シューというすべるような音、ジューという焼けるような音、いや、そんな単純な音じゃなくて、言葉ではあらわせないような微妙な、不思議な音だった。
こんな音、いつ鳴り出したんだろう。流れ星を見付けるまでは、たしかになにも聞こえなかった……。それならこの流れ星の音? まさか、そんなの聞いた事がない。
音に気をとられながらも目だけは流れ星を追い続け、やがて西空のうす明かりに溶けこむように消えるのを見届けた。と同時に音もとだえた。
ぼくは大きく身ぶるいした。しばらくわすれていた息をゆっくりついた。はく息までがかすかにふるえた。
とても信じられない事だけど、これはもう流れ星の音としか考えられない。力をこめて体のふるえだけはなんとか止めたものの、心の動揺はもうどうしようもなかった。
一週間たった今でも、こうして同じ場所に立つと、まるで頭の中がマーブル模様のようにこんがらがってくる。ほんとうにそんな事があるなんて、いまだに信じられない。
でも、あの音はたしかに聞こえたんだ。今でもはっきりおぼえているあの音。すべるような、焼けるような、こするような、ころがるような、シューともジューともサーともシュルシュルとも聞こえるような音。あらゆる音色をふくむようで、周囲の虫の声とはっきり区別のついたあの音……。
いつのまにか、虫の声がうるさいくらいに大きくなっている。空はもう真っ暗で、さっきまで白い薄紙のようだった半月も、今は黄色みを帯びてかがやいている。
「そろそろ帰らないと。」
ぼくは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。もうおなかがいたいくらいにすいてるし、それに帰りがおそいと寄り道が親にバレてしまう。最後にもう一度空をあおいで、ぼくは自転車に乗った。
でもいっその事、寄り道の事も流れ星の事も、両親にうちあけてしまおうか。ダクテンとミリにうちあけ、工藤と有吉にまで知られ、どうせもうぼく一人の秘密ではないんだから。それに、お父さんやお母さんからほかの人に秘密がもれるとも思えない。
「そうだな、大人にそうだんすればなにかわかるかもしれない……。よしっ」
決心のつきかねる自分自身をうながすように声に出して言いながら、ぼくは急な下り坂をすべり下りていった。
10月13日 木曜日
よく朝、はちみつびんを透かしたような朝日が窓から射しこんで、ぼくははやばやと目を覚ました。きのうの夜は雨戸もカーテンも閉めないまま寝てしまった事に、その時になって初めて気がついた。
ぼくは窓を開けて見慣れた景色を見わたした。早朝の町の景色は明るくて清潔で、絵ハガキにしてもおかしくないという気さえした。
それでもぼくの気持ちはすっきり晴れない。モヤモヤと、きのうの夜の不満がわき上がって、このままもう一度ベッドにもぐり込みたくなる。
そんな気持ちをなんとかおさえながらぼくは着替えをすませ、下に降りていった。
早起きにおちつかなさも手伝って、ずいぶん早く学校に来てしまった。そしておちつかない気分のまま、二人の来るのを待った。
ちょっとしゃくな気もするけど、今となってはたよりになるのはミリとダクテンだけだ。本を調べて、なにかわかっただろうか。それがひどく気になって、知らず知らずのうちにつくえの下では両手の指が追っかけっこを始める。
なのに二人はいつまでもあらわれない。ぼく一人早く来たって、なんにもならないのに。だいたい、家の近いやつほど来るのがおそいっていうのはどういうわけだよ。
工藤と有吉がそろってやって来た。教室の入り口をじっと見ていたぼくと目が合うと、二人は笑いかけてきた。今まで例のなかった事でぼくは一瞬とまどったけど、すぐにその理由に気付いて気をおちつけた。
あの二人は、ミリを通してぼくの秘密を知ってしまったんだった。その秘密を共有しているという仲間意識みたいな気持ちから、ぼくに笑いかけたんだろう。
ぼくは口もとだけで笑いを返すと、またすぐ教室の後ろの入り口に視線をもどした。
仲間意識か……。ミリがことわりもなしにあの二人を仲間に入れたのは不満だったけど、もともとあの二人がきらいってわけでもないし、今さら無視するつもりはない。まあ工藤も有吉も星の事なんてなんにも知らないだろうし、力になるとも思えないけど。
それでも、二人のあの笑顔にはなんだかほっとした。秘密を自分たちだけで共有して、ほかのだれにもしゃべらないという気持ちが、あらわれているように思えたから。
しばらくしてダクテンが来た。席にカバンも置かないで、ダクテンは真っすぐぼくのところにやって来た。
「本調べてみて、なんかわかった?」
なにげない口調でぼくはたずねた。まわりにクラスメイトがおおぜいいる教室では、小声で話したりするほうが、かえってみんなの気を引いてしまうからだ。ダクテンもいつも通りの大声で答えた。
「たいした収穫はなかったわ。それっぽい事は書いてあったんやけど、ちょっとちがうようやし……」
「えっ?」
「……まあ、あとでな」
「ん。……で、ミリは?」
「知らん。まだ来とらへんのか」
「ああ」
「まあそのうち来るやろ。それで、今日は上野、ヒマなんやろ?」
「放課後? うん、今日はへいきだけど」
「じゃあミリん家に集まる事にしようや。その本上野にも見てもらわんとな」
「でも、ミリの家どこか知らないんだ」
「あっそうか。まだ一ぺんも行った事ないんやったな」
「わかるのは、学校のうらの道をずっと向こうに行って……」
「そうやそうや、そのまま真っすぐ行った左側や。あとでいちおう地図描いたるわ」
しばらくダクテンと放課後の予定を話し合っていると、だしぬけにパーンと大きな音がした。あわててふり向くと、ミリがニヤニヤしながら立っている。
「安心しな。空砲だ」
ミリは片手に紙でっぽうを持っている。目立ちたがり屋のミリの、いつもの悪いクセだ。ひとの気を引こうとして、しょっちゅうおかしな事をやらかす。最近はクラスのみんなも慣れっこになってしまったらしく、そのせいでミリの悪ふざけはたびたびぼくに向けられる。
「なにやってんだよ」
ぼくは紙でっぽうをひったくろうと手をのばしたけど、ミリはもっとすばやく手を後ろに回した。ミリが来たら調べた事をいろいろ聞こうと思ってたのに、そんな気持ちもいっぺんに消えてしまった。
「だいたいそんなもん学校に持って来て、おこられたって知らないぞ」
「へいきへいき。先生が来る前にこうすりゃいい」
言いながらミリは、教室のすみにあるゴミの缶に向けて紙でっぽうを投げた。ぐうぜんだろうけど、紙でっぽうは見事に缶の中に落ちた。
「ヒョーッホホホホホウ。入った入った、キセキのシュート!」
……もうおこる気にもならない。まったく、きのうはお父さんもまじめに取り合ってくれなかったし、そのうえミリもこんな調子で、いったいだれが力になってくれるんだろう。
ミリのキンキンひびく声を聞きながら、ぼくは絶望的な気分になった。
二時間目の終わった中休み、ミリとダクテンにうながされて、ぼくはしぶしぶ教室を出た。工藤と有吉もついて来た。
「どこ行くつもりだよ、いったい」
「階段のとちゅうや」
なあるほど。あそこならこっそり立ち聞きされる心配はないし、通りすがりに話の一部だけ聞かれたってなにもわかりっこない。ぼくはミリのアイデアに感心してしまった。
「へえ、いい場所思いついたなあ」
「そう思うやろ。人通りは多いけど、そのかわりだれも立ち止まらんから、かえって安全や」
そう言って、ミリは片手をふり上げた。その手にはまた紙でっぽうがにぎられている。きっと図工の版画で使っている新聞紙を、ロッカーから持ち出して作ったんだろう。とたんにいやな気持ちになったけど、好奇心にあとおしされてぼくはそのままついて行った。
有吉にせなかをつつかれて、ミリも今は目立つのはまずいと気づいたみたいだ。手をそっと降ろすと、そのまま紙でっぽうをクシャクシャとポケットにつっこんだ。
ぼくたち五人は階段の踊り場に寄り集まった。
「朝ダクテンに聞いたけど、それらしい事が書いてあったんだって?」
「それがちょっとちがうみたいなんだよな。なあ、上野の聞いた音ってどんな音やった?」
「だからシューっていうかシュルシュルっていうか……」
「長くのびた音やな? パーンっていうみたいな音じゃなくて」
「うん」
「そしてそれは、流星が流れてる時に聞こえたんやな?」
「うん」
「しばらくたってからじゃなくて?」
「ああ。いったい本になんて書いてあったんだよ」
質問されるいっぽうで、ぼくはちょっとイライラしてミリに聞き返した。
「それがな、流星が音を出す事はあるらしいけど、それはパーンっていう音だって書いてあるんや」
「それも、少しおくれて聞こえるそうや。上野は流星と同時に音を聞いたんやろ?」
今度はダクテンが質問を始めた。ぼくは首だけめぐらせてダクテンのほうを向いた。
「だからそうだって」
「まちがいないか?」
「ああ」
「うーん。どういうんやろうなあ」
二人は考えこんでしまった。
「なんで? 同時に聞こえたらなにがおかしいんだ?」
「だって音は光よりずっとおそいやろ。だから見えてからずっとあとで聞こえるはずなんだけど……」
「遠くの雷とおんなじや」
「あ、そうか……」
ぼくはそこまでは気がつかなかった。見えると同時に聞こえるはずなんてないんだ。それならやっぱり、あれは錯覚って事になるのか……。知らないうちに、ぼくは視線を足もとに落としていた。
みんなはどう思っているんだろう。ダクテンとミリは、流れ星があんまりすごかったから音が聞こえたような気がしたんだ、と言うかもしれない。お父さんと同じように……。工藤と有吉はどうだろう。流れ星であるわけないからそれはUFOだとか言って、すごい不思議だというだけでおしまいだろう。
でも、それじゃうちあけた意味がないじゃないか。ぼくはすぐに顔を上げ、強い調子でみんなに言った。
「でも音が聞こえたのはたしかなんだ。ぜったいにまちがいない。あるはずがない事だから気のせいだ、なんて合理的なだけの考えもいやだし、不思議だからUFOだ、なんて神秘的な考えだけで終わらせたりもしたくない。おれは解明したいんだよ、どうしてああいう現象が起こるのか」
真剣な思いをわかってもらいたくて、ぼくはむりしてむずかしい言葉をえらんで話した。
「今の常識っていうか、今の科学で考えられないからって、そんな事はあるはずないなんて言えないよな。そうだろ? そのうち謎が解けて説明がつくようになるかもしれない」
あるいは、自分でその謎を解くか……。もしもできる事なら……。
「な、だから協力してくれよ。」
みんなは一様にうなずいたけれど、言葉をのみこんでしまったようにだまったままだ。ちょっとおおげさな事を言いすぎたかもしれない。頭が冷えるにつれて、なんだかきまりが悪くなってきた。
しばらく話がとぎれたあと、それまでずっとだまっていた有吉が口を開いた。
「そんなに真剣な事やったなんて、あたしら知らんかったわ。ねえユッコ」
工藤もうなずいた。
「ほんま。なんかおもしろそうってだけじゃ、仲間に入れないみたいな感じやね」
「そんな事ないよ。おもしろそうっていうだけが理由でも、力になってくれるんならうれしいよ」
ぼくはあわてて二人にそう言った。言いながら、ぼくはその言葉に自分自身でおどろいていた。
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