秘密は取りあつかい注意 − 三原色プリズム 3 −
こないだの社会のテストが返ってきた。百点はクラスでたったの二人きり。あたしと、清水くんと。
「寺内とキヨってほんと似てるな」
村井が聞こえよがしに言った。
「キヨってだれよ」
あたしはわざとらしくとぼけてみせる。
「キヨはキヨミズ、シミズだよ。いやほんと、寺内と清水って似てるよなあ」
村井のやつ、こないだの事をまだおもしろがってるのね。あたしが借りたタオルを清水くんに返す時、やたらドギマギしてしまった事を。あたしはただ、親切にされたのがてれくさかっただけなのに。
でもいいわけなんかしたらますますひやかされるだけだし、だまっておこう……、なんておとなしく引き下がるあたしじゃない。
「村井っ! あんたちょっとしつこいよ。自分が点数悪かったからって、そんなにひがまないでよね」
「べーつに。理科じゃおまえなんかに負けねーもん」
……イタイとこついてるなあ。
「だいたいね、何を根拠にあたしとあの人がお似合いだなんて言うわけ?」
「べつにおれ、お似合いとまでは言わないぜ」
「だ、だから、何を理由に似てるなんて言うのよ」
あたしはチラと清水くんのほうを見た。あたしたちの話が聞こえているのかいないのか、清水くんはこちらに背中を向けたままだ。
「寺内も清水も、どこかふんいき似てるんだよな。近寄りにくい優等生とまでは言わないけど、なんか自分だけの世界をかくし持ってるみたいな。ほら、おまえ西尾や佐倉といつもいっしょにさわいでるけど、たまに一人で空を見上げてたりするだろ」
「それは……」
そう、村井の言う通り、たしかにあたしには秘密がある。
なぜだかわからないけど、あたしの目には、あたしだけに見える糸くずのような物がある。明るい色を見た時には、すきとおった糸くずがいつも流れる。あたしが時おり空を見上げるのは、小さいころから身近にあるその糸くずが、今もあたしを包んでいるか確かめるためなんだ。一人きりで、ひそかに。
「それで最近気付いたんだけどな、」
村井が続けた。
「清水がやっぱり、ジーッと空を見上げてる事があるんだ」
清水くんが? ……まさか、清水くんも?
「それがおれ気になっちゃってさあ」
「はあ、そんな事を気にするなんて、ヒマ人だねえ。たまには一人でボンヤリする事くらい、あって当然でしょ。まあ、優等生の余裕ってとこかな」
あたしはふざけるように言ってやった。村井の好奇心を笑いとばすように。そして、清水くんに対するあたし自身の好奇心をかくすために。
2 長谷川の秘密
三時間目が終わって、音楽室から教室にもどる途中、
「テラッチ、ちょっと」
あたしはニッチに呼び止められた。ふり返ると、長谷川もいっしょにいる。
「ね、テラッチには話してもいいよね」
ニッチはまず長谷川に、そう念をおしてから話し始めた。
「きのう長谷川くんのカバンから、写真が一枚なくなったんだって。それを探し出すのを、手伝ってほしいとたのまれてるんだけど……」
「けど佐倉にはだまっとけよ」
長谷川が低い声で言った。
「どうしてよ」
「どうしてもだ。ほんとはおまえらにだって秘密にしときたかったのによ」
長谷川はあたりを見回した。もちろんサッチの姿はない。サッチは音楽大好き少女だから、いつも休み時間ギリギリまで音楽室に残るんだ。
「とにかく、それってどんな写真なの?」
「だから秘密だって言ってるだろ」
今日の長谷川は、いつにもましてぶっきらぼうだ。これはよっぽどの秘密みたいね。あたしは好奇心をふくらませたせいで気を大きくした。
「ひとが協力してあげようっていうのに、その態度は何? たのみ事をするんなら、それなりの礼儀ってものがあるでしょ。せめて情報くらいは提供しなさいよ」
「わ、わかったよ」
あたしの勢いにおされて、長谷川はボソボソ説明を始めた。
「なくなったのに気付いたのは、昨日の昼休みだ。朝はたしかにカバンにあった」
「昨日は朝から体育もあったし、理科室にも行ったから、人目のない時にだれかがぬすんだ可能性大ね。その写真の特徴は?」
「おれがまだ小さい時の、古い写真だ」
「いつごろの?」
「五才、ぐらいか」
「それがなんで秘密なの?」
「……言えねえよ。とにかく、ちょっとヤバいカッコの写真でよ」
「わあ、そうなの」
清水くんの秘密にも関心あるけど、フフ、長谷川の秘密もオモシロそう。
「あんなのがもし女子に見られたら、おれ学校来れねえよ」
「だったらそんな物、学校に持って来なきゃよかったのに」
「家だってヤバいんだ。なんでも引っかき回す妹がいるからな」
長谷川がこんなにビクビクするの、初めて見たな。ほんとオモシローイ。
「もう一度言っとくけど、ほかのやつらには、佐倉にもぜったい秘密だからな」
「そんなにはずかしがらなくてもいいんじゃない? 五才ごろの写真ならべつに平気だよ。意外と人気になるかもね、カワイイって」
「るせえっ! だまれっ!」
長谷川が真っ赤になってどなったので、あたしとニッチは走って逃げた。
「長谷川くん、真っ赤になってたね」
「うん。よっぽどはずかしかったんだね」
あたし達は、走って逃げながらも笑っていた。
3 秘密は秘密に
「でも笑ってる場合じゃないよ、アカネ。今回はアオイを除いて、あたしたち二人だけで事件を解決しなきゃならないんだから」
「うん、大変かもしれないね、ミドリ」
「まずは聞き込みから始めるのが基本だけど……」
「そういう時こそ、社交的なアオイが適役なんだよねえ」
でもしょうがない。長谷川と約束した以上、アオイには秘密で行動しないとね。自信はないけど今回だけは、あたしとアカネの二原色だけで作戦開始よ。
「どうする? 手分けして回ろうか。それともいっしょに聞いて回る?」
内気なアカネの事だから、いっしょに回ると言ってくれると思ったのに……。
「じゃあうち、ムーくんにもっとくわしい話聞いてみる。ミドリはほかの人をたのむね」
「そう……」
ちょっとガッカリ。ますます心細くなってきたな。
「でもちょっとアカネ、くわしい話を聞くって、まさか写真の事は村井から聞いたの?」
「うん。まずムーくんから聞かされて、さっき長谷川くん本人に確かめたの。ほんとは長谷川くん、うちにも秘密にしておきたかったらしいけど」
村井がしゃべってしまったからしかたなく、ってわけね。こないだの事件でもそうだったけど、ほんとあいつはおしゃべりなんだから。
「じゃあ、アカネは村井の方をおねがいね。あたしはもう一人の心当たりに聞いてみる」
もう一人の心当たりというのは、もちろん……。
「ちょっと清水、くん」
まだあんまり親しくないのを思い出して、あたしはあわてて「くん」を付け足した。
「長谷川の事で、村井から何か聞いてるでしょ」
あいつらはもう、呼び捨てでじゅうぶん。
「いいや、べつに」
「聞いてない? ほんとに? だって前の事件でもあいつ、あんたに口をすべらせてたじゃない」
「また何か事件?」
「あ、知らないんならべつにいいの。秘密にしろって長谷川も言うし」
あたしったら、何をしゃべってるんだろう。秘密なら秘密にしておけばいいのに。
あんのじょう、清水くんは興味たっぷりの笑顔を浮かべた。
「秘密かあ。秘密といえば、長谷川とは関係ないけれど、一つ村井から秘密の話を聞かされてるよ」
「え? どんな?」
「ぼくと寺内とは似てるんだってさ。何か秘密をひそませてるようで」
「あ、あたしはべつに、そんな事はぜんぜんないよ。ないったら」
あたしはひたすらアセりまくった。
「ほんとに?」
「ほんとよ。似てるだなんて、ただあたしとあんたは得意科目が同じってだけじゃない。それだけ、ただそれだけでしょ」
まったく、なんであたしが清水くん相手に、何度もドギマギしなきゃなんないの? それというのも、あたしの秘密にふれられそうになったからよ。
「とにかく、あたしには秘密なんてないの。ぜんぜんね。バッカみたい。ほんと村井って、つまんない事ばっかし言うんだから」
あたしは村井を強く非難した。自分の秘密を守るために。
同時にそれが、清水くんの秘密をさぐるきっかけを失う事にもなると、じゅうぶんわかっていたけれど。
4 うしろめたさ
『うん、たしかにあたしたち似ているかもね。ところで、清水くんの秘密ってなんなの?』
できればそんなふうに、自然にたずねられればよかったのに……。でも、無理よね。あたしはアオイとはちがうんだから。
「ムーくんに話を聞いてきたよ」
アカネがもどって来た。
「きのう長谷川くんにたのまれて、放課後二人で教室じゅう探し回ったんだって。だから、ただ大事な写真がなくなったって事しか知らないみたい」
「そう」
「ミドリのほうはどうだった?」
「ぜんぜんダメ。秘密にしなきゃならないとなると、どう聞いたらいいかわかんなくて。やっぱりあたしには聞きこみなんてムリよ」
「そう、こまったね」
「でもだいじょうぶ、まかせてよ。ほかにいい方法を思いついたから」
そう、あたしはアオイとちがって、ひとから気軽に話を聞くなんて事はできない。でも事件解決のためのアイデアなら、いくらでも考え出せるんだから。
「写真はだれかがぬすんだと仮定して、その人はたぶん、多少はうしろめたい思いがあると思うの。だから写真の話題を耳にしたら、きっと反応をしめすはず」
「でも、写真の事は秘密にしないと……」
「べつに長谷川の写真について話さなくても、写真の話ならなんでもいいの。きっと写真という一言だけで、犯人はビクッとするはずだから」
そんなわけで、あたし達は給食時間に写真について話す事にした。あたしとアカネは別の班で席も少しはなれているけど、クラスみんなの反応を見るために大きな声で話すには、それはむしろ好都合ってものよ。
「ねえアカネアカネ、意味のない物三つ知ってる? パンダのカラー写真、シマウマのカラー写真、それからシロクマのカラー写真」
無意味なおしゃべりのようでも、写真に心当たりのある人なら必ず反応するはずよ。
まず反応をしめしたのは……なんだ長谷川か。写真の一言だけで、青くなってオロオロしてる。ふだんしっかりしているだけに、なさけない姿よねえ。
「それならむなしい物三つ知ってる?」
アカネが返した。
「アカトンボの白黒写真に、アオカナブンの白黒写真、えーとそれから、ミドリシジミの白黒写真」
「ハハ、そうよね。色がなかったら、ただのトンボやカナブンだもんね。あれ? ミドリシジミって、飛ぶシジミ? それともおみそしるのシジミ?」
「チョウだよ」
横から不意にそう答えたのは、なんと清水くん。あたしはまたまたアセった。
「あ、そ、そうなの。あたしアカネとちがって、生き物にはくわしくないから」
なんだか話までそれちゃって。
「あたしは国語と社会が得意でね、アカネは理科と体育が得意で、それからアオイの得意は音楽に家庭科でしょ。それぞれ得意な科目がちがうのよ」
「だからわたし達三人で、おたがいにがてな部分をカバーできるのよね。ねえテラッチ」
「そ、そうだね、アオイ」
アオイまでが話に入ってきてしまい、あたしはますますアセった。
この話題で一番ビクビクしてるのは、じつはあたし自身だったみたい。
5 秘密のほつれ目
そう、たしかにあたしは、活動を秘密にしている事でアオイにうしろめたさを感じていた。それなのに、長谷川のためだからと理由をつけて、無理に納得しようとしていた。ほんとにこんな事でよかったのかな。いや、アオイの気持ちを考えたら、いいはずないよね。
どうしてもっと早く、そう気付く事ができなかったんだろう……。
昼休みのあとのそうじの時間、
「ちょっとこっちに来てよ、ミドリ」
「なあに? アオイ」
アオイに呼ばれて行ってみると、アオイは表情をこわばらせてあたしを見た。
「どうしたの?」
「どうして今わたしがテラッチの事、ミドリって呼んだかわかる?」
「それは……」
「さっき給食の時に気付いたの。ニッチとテラッチが、アカネ、アオイと呼び合うのを聞いて」
「…………」
ふだんニッチ、サッチ、テラッチとよび合うあたし達三人は、グループ“プリズム”として事件解決のために活動する時だけ、アカネ、アオイ、ミドリと名前で呼び合う事にしている。……ああ、あたしったら、なんてドジなんだろう。こんな事から秘密がほつれてしまうなんて。
「やっぱり何か事件が起こってるのね。ねえ、プリズムが活動してるんでしょ? どうしてわたしには知らせてくれなかったの?」
「えーとそれはその、あたし達二人でもなんとかなると思って、だから……」
「それじゃあグループ結成の時の、あの約束はなんだったのよ。三人それぞれ得意な事を生かして、にがてな事はカバーしあおうねって、そう約束したのに」
「……アオイ、じゃなくてサッチ、とにかく今は事件よりも、おそうじかたづけちゃおうよ」
するとアオイはうつむいて、そのまま向こうを向いてしまった。
「サッチ? 泣いてるの?」
「怒ってるのよ」
パシッとかわいた音が響いた時、あたしにはそれがなんの音だか分からなかった。けれどすぐに分かった。ふり返ったアオイの両手には、まっぷたつに折れたほうきがにぎられていたから。
「まじめに聞いてるのに、ごまかすなんて最低。見そこなったわ、寺内さん。親友だと思ってたのに」
「アオイ……」
「そりゃ親友同士でも、秘密くらいはあって当然だわ。でもね、秘密を持ってる事自体をかくすなんて、ひきょうよ。わたしを信用してない証拠じゃないの」
声をふるわせながらそう言ったアオイは、折れたほうきをゆかにたたきつけた。
あたしはとっさに、
「はい、もう一本」
自分のほうきをアオイに渡し、アオイがあっけにとられているすきに教室から逃げ出した。
ああこわかった。うかうかしてたらあたしの背骨を折られそう。
もちろんあたしも悪かったんだから、反省はしてる。けれどもやっぱり、すべての責任は長谷川がとるべきよ。
6 長谷川の告白
あたしが長谷川を連れて教室にもどると、サッチは二本目のほうきもへし折っていた。うわ、やっぱりまだ怒ってるみたい。あたしはそっと長谷川の後ろにかくれ、その背中を押した。ほら、責任とってあんたがあやまんなさいよ。
「佐倉、ごめん。おれが西尾と寺内にたのんだんだ。佐倉にはだまっててくれって」
「どういう事?」
「佐倉にだけは、知られたくなくてよ。けどこうなったら全部説明するから、聞いてくれるか」
サッチはうなずいて、折れたほうきをそっと足元に置いた。そしてあたし達三人は、人気のないベランダに出た。
「西尾と寺内には、写真を探してくれとたのんでたんだ。他人には見せられない、秘密の写真をな。学校の焼却炉で焼いちまうつもりが、その前になくなっちまって」
「どうしてその写真が秘密なのか、聞いてもいい?」
とアオイ。いつも通りのおだやかな口調にもどってる。
「五才くらいのおれが、ヤバいカッコで写ってんだ。つまり……、女の子の服を着せられて……」
「なあんだー、秘密の写真ってそんな物だったの?」
あたしは思わず大きな声をあげた。
「ひとに見せられないはずかしい写真っていうから、あたしてっきり……」
「バカ、おまえは想像しすぎなんだよ!」
長谷川がどなって、アオイが笑った。あたしはすっかり気分がなごんだ。
「ちょっぴり期待してたんだけどなあ。ぜったい見付けてやろうって、ガンバッてたのに。でも、女装写真もおもしろそう」
「言っとくけどよ、べつにおれにそういう趣味があったわけじゃねえぜ。親がずっと女の子をほしがってて、おれはその願望の道具にさせられてたんだ。妹が生まれるまで、ずうっとな」
ふうん、そんな過去があったなんてねえ。長谷川が無理に荒っぽい言葉づかいをする理由も、なんだか分かった気がする。
「今も妹は、なんにも知らずにおれのお下がり着てんだぜ」
長谷川のつぶやきに、あたしは笑い出したいような、気の毒なような、複雑な気持ちになった。
アオイが長谷川にやさしく言った。
「写真を秘密にしようとした長谷川くんの気持ち、よく分かるなあ。大好きな妹の前で、はじをかくのがこわかったのよね。ね、そうでしょ?」
「まあな」
「お兄ちゃんだもんね、そういうものだと思う。安心して、わたしも今聞いた事は忘れるから」
アオイはそっとベランダからはなれた。
続いて、あたしも長谷川に向かって言ってやった。
「いつまでもウジウジするの、あんたらしくないよ。安心しなさいって。あたしにはもう、写真のゆくえの目星はついてるんだから」
そしてあたしはさっそうとベランダからはなれた。
アオイのなぐさめとあたしのはげましと、さて、長谷川にとってはどっちがうれしかったのかな?
7 秘密の価値
呼び出しに応じて体育館裏にあらわれた花岡さんに対して、あたしはいきなり切り出した。
「長谷川くんの写真をぬすんだのはあなたでしょ。返してちょうだい」
「写真ってなんの事?」
「とぼけないで。あたしにはわかってるんだから」
「強引に決めつけないでちょうだい。いつでもわたしのせいにするんだから」
「証拠があるわ。給食の時にあたしが写真の話題を持ち出した時、ビックリしたりソワソワしたり、はっきり反応をしめしたじゃない」
「そんな事、証拠にならないわ」
花岡さんがなかなか白状しないので、あたしはちょっとばかりおどしをかけた。
「そんなに意地を張らないで、今のうちあたしに写真を返した方が身のためよ。アオイが怒ってほうきを折った事は知ってるでしょう。もし犯人が見付かったと知ったら、どうなるかしらねえ」
効果てきめん、花岡さんは顔をひきつらせてさけんだ。
「おねがいっ、佐倉さんにだけはだまっていて!」
あたしは思わずニンマリ。ほーら、やっぱりシッポを出した。
「……わかったわよ、いさぎよく認めるわよ。ところで、返したあと写真はどうするつもり?」
「焼き捨てるそうよ、秘密を守るためにね」
「だったら、このままわたしが持ってるわけにはいかないかしら。ぜったい秘密はもらさないと約束するから」
「バカな事言わないで。信用できるわけないでしょ。一方的に弱みをにぎられるなんて、たまんないわよ」
「そんな事ないわ。寺内さんの方だって、わたしの秘密を知ったわけだし」
「え? なんの事?」
「意外とにぶいのね。わたしがなぜあの人の写真を持ち逃げしたか、その理由までは推理できないの?」
ええー? まさか、花岡さんは長谷川の事を……。
「おねがい、佐倉さんにだけはだまっていてね」
花岡さんは、さっきとはうってかわった笑顔をうかべ、片目をつぶった。ほんと、この人にはかなわないなあ。あたしはニガ笑いでうなずくしかなかった。
「でも、ほんとにだいじょうぶなんでしょうね」
「信用してちょうだい。これはわたし自身の秘密でもあるんだから、守り通してみせるわよ」
「それならいいけど」
「ところで、知らないでしょう。あの人の小さい時の写真、ほんとすごーくカワイイんだから」
「そんなに? あたしも見たい」
「ダーメ、秘密だもの。わかってるでしょう。それじゃ、失礼」
花岡さんは去っていった。くやしいけど、たしかにこれなら安心かもね。
体育館から裏庭を通りかかると、そこには清水くんが立っていた。村井の言っていた通り、立ちつくしたままじっと空をみつめ続けている。
……そうだよね。秘密というのは守ってこそ価値があるものだし、だから、清水くんにも秘密を守っていてもらおう。
「清水くん、あんたも不思議な人だね」
すれちがいざまにそれだけ言うと、あたしはそのまま裏庭をかけぬけた。
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