ひと夏の少年 − ひたむきさの季節に −
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6
八月も今日から二けたか……。夏休みも半分が過ぎちゃった。楽しい時間って、どうして早く進むんだろう。
カズヤと知り合って、親しくなって、毎朝のラジオ体操は前よりうんと楽しみになった。でもそのせいで、カズヤと一緒の時がとても短く感じるようになったな。カズヤと別れると、もうその瞬間から次の朝が待ち遠しくてたまらない。
でもだからってべつに、ボクがカズヤの事を好きだってわけじゃないよ。同い年と聞いても、やっぱりカズヤは年下感覚だからね。いつも半ズボンでやって来て、やっぱりどう見ても小学生よ。ボクがあこがれるのは、加納先輩みたいなカッコイイ年上なんだから。カズヤはやっぱり、ただの友達。
「学校でね、テニス部に加納先輩ってステキな先輩がいるの。その先輩にみすずとみえがすっかり夢中になっちゃってねえ」
もちろんボクもね。
「二人とも顔を合わせればその話ばっかりなんだ。みすずなんか、なかなかやるんだよ。時々わざとボールをはずしてね、それを拾うのを口実にして先輩のそばに行くの」
「それで?」
「ただそばに行くだけ」
「なあんや。もう一人の方は?」
「みえはね、先輩のデータをいろいろ調べてる。こないだなんか先輩の上履きをこっそり手に取って見てるの。何してんのって聞いたら、足のサイズが知りたかったんだって」
「ハハハ、ほんまに変わっとうなあ。そんなもん知ってどうするんや。で、マイコは?」
「ボクはべつに、……なんとも思ってないから」
思わずそう言っちゃったけど、なんでカズヤに隠さなきゃならないの? 想いは秘めるもので、やたらと他人にしゃべるものじゃないから、かな?
でも、加納先輩への想いというのは、一人になって落ち着いて考えてみると、どうも本物とはいえないみたい。ただあの二人と一緒になって、今日は先輩としゃべっちゃったーとか、先輩って辛い食べ物が好きなんだってーとか言いながら、はしゃいでいるのが楽しいって感じかな。もし真剣に好きだったとしたら、ボク達三人なかよしでいられるわけないもんね。ライバル同士って事になるんだから。
「カズヤは……」
好きな女の子いるの? と聞きかけて、ボクは慌てて言葉をのみ込んだ。カズヤにはうかつな事は聞けないんだ。またすぐ不機嫌になるんだから。
「……いつまでそんなとこに座ってるの? 用がすんだら降りて来たら?」
「なんで?」
「あんたが高いとこにいたら話しにくいのよ」
「じゃあマイコが登って来りゃいい」
「えっ、いいの?」
「お好きなように」
登ったりしたらまたカズヤが怒ると思ってたから、今まで近付くのさえ遠慮してたのに。でも本人がいいって言うのなら……。ボクはジャングルジムに足を掛けて、片手をカズヤに向けて伸ばした。
「ほら、手ぐらい貸しなさいよ。あんたが登って来いって言ったんでしょ」
「まったく……」
ぼやきながらも、カズヤはボクの手を握った。フフ、カズヤってかなりおくてみたいね。女の子の手なんか握った事ないんだ。動揺してるのが手に取るように分かるもの。でもそのせいで、ボクの方までなんだか緊張しちゃったじゃない。
カズヤと加納先輩の違いって、なんだろう。ボクにとって、カズヤは不思議な気になる相手。先輩はステキなあこがれの対象。でもその想いは、やっぱり本物じゃないみたい。
加納先輩は、ボク達なかよしグループの間で、ただなんとなくあこがれの人に仕立て上げてただけなのね。なかよし同士で共通の話題がほしいっていうだけが理由で。そんなふうに冷静に考えるうちに、なんだかシラケてきちゃった。確かに加納先輩はステキだけど、ただそれだけよ。たとえばどこかに一緒に遊びに行くとしたら、カズヤが相手の方がずっと楽しそう。いつか、ほんとに誘ってみようかな。
7
「ねえ、カズヤはいつも朝ごはんは食べて来てるの?」
「いいや、まだ」
「じゃあ帰ってから食べるんだ。ボクもそう」
「早く帰らなくってもいいんか?」
「いいよ、べつに。夕ごはんならともかく、朝ごはんなんてそれぞれ勝手に食べてるんだもん」
なんかくだらない事話してるなあ。自分でもそう思う。本当は、あのジャングルジムくぐりにどういう意味があるのかをたずねてみたいんだけど……。
「カズヤの家は朝ごはんはなあに? パン? ごはん?」
「うちはパン。小さい時からずっとそうやな。マイコの家は?」
「やっぱりだいたいパンね。でもカズヤ、それだとたまにはごはんが食べたいなあなんて思ったりしない?」
「べつに」
「焼きのりや梅干しで食べたいなあとか」
「ハハ、思わないよ、そんなの」
「あ、ちょっと思い出したけど、面白い話があったんだ。聞きたい?」
「うん」
カズヤはジャングルジムの上で身を乗り出した。話をするのは今もボクの方ばかりだけど、それでもカズヤがこんなふうにして聞いてくれると、それだけでなんだか楽しくなってくる。
「ボク小さい頃から動物が好きでね、特にリスが大好きだったの。それでリスが飼いたい飼いたいって言ってたんだけど許してもらえなくって、だから写真を集めたりしてたんだ」
「雑誌とか切り抜いて?」
「そう。それでその写真の中にね、リスがクルミをかじってるのがあったのよ。そういうのよくあるでしょ。でもその頃まだボクはクルミを知らなくてね、幼稚園の時なんだけど、この実はなんだろうって思ってたの。そしたらね、幼稚園の帰りに道にクルミが落ちてるのよ。もう大喜びでね。分かるでしょ? ずっと見たい見たいと思ってた物を見付けたんだから」
「うん。ずっと本物を手に入れたかったんやな」
「そう。それでね、大喜びでそれを拾って、大事に握りしめて家に帰ったの。それで得意げにお母さんに見せたらね、あんた何拾って来たのってあきれるわけよ。どうしてか分かる?」
「さあ」
「ボクの拾ったクルミの実、ほんとは大きな梅干しの種だったの」
「ハハハ、梅干し、ハハハハハ……」
身を乗り出して聞いてたカズヤは、今度は体をそらせて大笑いしてる。まさかこんなにうけるとはねえ。
「ハハハハハ、確かに似てる。でも大きさで分からんかったん?」
「だって写真でしか見た事なかったんだもん」
「じゃあリスも指先にのるくらいに思ってたな? ハハハハ……」
カズヤはジャングルジムの上で、まだ笑いころげてる。また落ちたってしらないから。
こんな時のカズヤは、ごく普通の男の子に見える。あのどこか儀式めいた、不思議なジャングルジムくぐりに熱中するカズヤとは別人みたい。いったい、どっちが本当のカズヤなんだろう。
「あーおかしかった。あー苦しい」
「でも分かるでしょ?」
「ああ、一度そう思い込むとなあ」
「そう、ボクって単純だから。でも帰り道で見付けてから握りしめて走っている間は、梅干しの種もボクにとっては本当に大事な宝物だったんだから。分かってくれる?」
「うん、よく分かるよ。僕にもそういうのはあるから。ひとには分かってもらえない、自分だけの大切な物っていうのは」
カズヤの口調はいきなり静かになった。
「マイコは夜の公園を知ってる? みんなのためのあの場所が、誰もいなくなると全然違った感じになるんや」
「うん、なんとなく分かる」
「特に遊具があやしく見える。あやしくて意味ありげで」
「ふうん」
いつの間にか、ボクの方が聞き役にまわっている。気のないあいづちとはうらはらに、ボクはカズヤの話の続きに気が急いていた。
「遊具っていうのは、ただみんなが遊ぶためだけにあると思う? 何かほかに……」
「ほかに何?」
「どう言えばいいのか……」
「…………」
「中でも一番いわくありげなのが、これ」
ジャングルジムね。やっとカズヤは話してくれる気になったんだ。
「うーん、どう言ったらいいのか。……これをくぐると見えたんだ。見えたみたいな気がした」
「何が?」
「同じジャングルジムのある、ここからは遠い所。これを通してつながってるような気がするんだ。ここと、……その場所とが」
なんとなく分かった。カズヤはジャングルジムをくぐり抜けて、そこへ行きたいんだ。それとも、帰りたいと言った方がいいかな。
「本気でそんな事信じてるの? そこへ行けるまで続ける気?」
思わず言ってしまってボクは後悔した。カズヤはジャングルジムから乱暴に飛び降りると、表情を硬くして答えた。
「ああ。それか気がすむまでな」
気がすむまで、か。カズヤだって確信しているわけじゃないんだ。それでも真剣にならずにはいられなくって、毎日毎日……。ボク、本当に悪い事言っちゃったな。
「ごめんね。ボクも分かるよ、そういうの。ひとには分からない、自分だけの大切な物、なんだよね」
笑顔の戻ったカズヤに、ボクは片手を差し出した。カズヤは握手の代わりに、手のひらをパーンと打ち合わせてきた。
「じゃ、バイバイ」
バイバイ、だって。カズヤってほんとに小学生みたい。
ボクの手のひらには、カズヤの手のひらのにおいが残った。これは鉄さびのにおい。そして、何かを大事そうに握りしめる、汗ばんだ子どもの手のひらのにおい。
8
その日以来カズヤは、たずねさえすればなんでも話してくれるようになった。ボクはいつかのようにジャングルジムの上に登らせてもらって、聞きたかった事を残らずカズヤにたずねた。
「でもどうしてジャングルジムなの? ほかの遊具じゃだめなの?」
「だってこれが一番いわくありげやんか。ブランコは単調すぎるし、すべり台は一瞬で終わりやし」
「登り棒は?」
「あれは、……苦手なんや、僕は」
「ひょっとして登れないの?」
「登れるよ、少しなら」
「少し?」
「もう言わんとってくれ」
「フフッ、ゴメン。じゃあここのジャングルジムじゃないといけないっていうのはどうして?」
「あ、それはな、公園のは大きさが違ってて、だから不適合というわけ。この辺では、キューブ72はこの小学校にしかないな」
「キューブ72? なあにそれ?」
「ほら、この中に立方体はいくつある?」
「はあ」
「その立方体の数と配置とが、完全に一致している事が条件なんや。ジャングルジムは型の同じ物同士が対応しているんだから。そしてそのジャングルジムごとに、それぞれ固有のキューブのくぐり抜けパターンが設定されていて、だからそれを見付け出す必要があるんだ」
「……どういう意味かよく分かんない」
「だからな、これにはこれの固有パターンが決まっていて、作動させるにはそのパターン通りにくぐる必要があるわけ」
「そのパターンはどうすれば分かるの?」
「そんなの分かるわけないよ。だから何度も何度も試してみて、偶然見付かるのを期待してるんだ」
これにはもうビックリしちゃった。ジャングルジムをくぐる時の顔付きから真剣なのは分かってたけど、まさかここまで思い込んでたなんて。ボクにはとてもまねできないな。実現するかどうかも分からない、ううん、まず実現するとは思えない事を試してみようとするなんて。たとえほんとにそんな事があるとしたって、くぐり方なんて数え切れないほどあるんだから、特定のパターンが偶然見付かるとは思えない。だいたいボクには、ジャングルジムがそんなふうにはどうしても見えないしね。
「その、キューブだっけ、横棒がなくてつながってる所もあるよね。ほら、わざわざくぐりやすいようにって。それでも立方体って言えるの?」
われながら、これはちょっとイジワルな質問。
「仕切りがなくても、上と下とはちゃんと別空間になってる」
「ふうん、そういうもんなの。それで、それの全部を通らないといけないの?」
「さあ。中にはダミーのキューブもあるかもしれないし、ひょっとしたら二回通らなきゃならないのだってあるかもしれない。だいたい、下から入って上から抜けるとも限らないし、ほんとになんにも分からない」
「…………」
もうなんて言ったらいいのか分からなくなっちゃった。こんなに真剣なカズヤには、面白半分にたずねちゃいけないような気もする。それでも返ってくる答にまた新しい疑問が含まれてたりするから、結局ボクの質問はいつまでも尽きない。
「それで、いったいいつ頃そんな事を思ったの?」
「さあ、憶えてない。憶えてないくらいずっと前から」
そんな小さな頃の事を、今でも信じているなんて。カズヤってやっぱり、どこか小さな子どもみたいなところがある。自分だけの大切なものを、一人でずっと握りしめているというような。
「でも、秘密じゃなかったの? なんでボクには話してくれたの?」
「なんでって、そりゃマイコが聞いたからやんか」
「ただ聞いたから?」
「そうや」
そんなふうに簡単にしゃべっちゃうような事だったの? まさかそんなはずないよ。本当は、カズヤにもボクの事がよく分かったから話してくれたんだと思う。ひょっとしたらカズヤもボクを、中身は小学生なみの子どもっぽいやつなんて思ってるのかもね。
9
今朝、ボクは妹とケンカした。そのせいでいつもより十五分遅れて出かけたから、学校に着いた時にはラジオ体操はもう終わっちゃってた。
門の手前で、帰る子ども達の集団とすれ違った。その中に妹もいたけれど、しらんぷりで通り過ぎてった。もう勝手にしなさい。
今頃カズヤはジャングルジムの上に座って、誰もいなくなるのをじっと待ってるんだろうな。なんて思いながら校庭に行くと……、カズヤはいなかった。ジャングルジムはカラッポだ。ボクはビックリして、ジャングルジムに駆け寄った。
カズヤはどうしていないの? まさかもう帰っちゃったの? いつもならまだいるはずだけど。それともまだ来てないの? あの子も今朝は遅刻かな。それとも、まさか……、本当に行ってしまったの?
ボクはジャングルジムをぐるりと回りながら中をのぞき込んだ。もちろんどこから見たってカラッポに決まってるのに、なんだか気になって三度も回った。それから校庭を見回したけど、やっぱりどこにもカズヤはいない。
ボクは門の方まで探しに行きかけて、また戻って来た。高いとこから見回せば見付かるんじゃないかと思って。ボクはジャングルジムによじ登った。まだ何人か子ども達が残ってたけど、見られて恥ずかしいなんて思う余裕もなかった。
……やっぱり、カズヤはどこにもいない。十五分遅れた事が、取り返しのつかない失敗だったように思えてきた。こんな事なら、妹になんて言われても、かまわずいつもの時間に来るんだった。そうすれば、最後にもう一度カズヤに会えたはずなのに……。
最後にカズヤに会ったのはいつだっけ。もちろん昨日の朝よね。ジャングルジムの上で、秘密をいろいろ聞かせてもらったっけ。でもなんだか、それがずっと昔の事のような気がする。カズヤ、今頃どうしているんだろう。
と思って目を開けたら、目の前にいた! ええっ、なんで?
「カズヤ! いったいどこから現れたの?」
カズヤはいつかの時みたいに、ただかすかに笑うだけでなんにも言わない。
「あ、ボク、下に降りた方がいいね」
カズヤはやっぱり黙ったままでうなずいた。そしてボクが慌ててジャングルジムから降りると、カズヤはすぐにその中に飛び込んでいった。ほっとしたような、そしてちょっとてれくさいような気分で、ボクはブランコに腰掛けた。
カズヤはいつも通りにジャングルジムくぐりをしてる。それを見ているうちに、なんだか恥ずかしくなっちゃった。ボクはあんな話全然信じてなかったはずなのに、いつの間にかすっかり本気にしていたなんて。どうして? ほんとに、いったいどうして?
カズヤの行動の謎は解けたけど、それでもカズヤには不思議な面がまだいくつもあって、だからボクのカズヤへの興味も尽きない。たとえば今も小さな疑問が一つ見付かったし。どうやらカズヤはジャングルジムをくぐり終えるまでは、絶対口をきかないようにしているみたい。
あ、終わったみたい。ボクはジャングルジムに駆け寄った。
「コラ、遅刻よ」
「いや、今日はちょっと仕方なかったんや」
「遅刻のバツは何にしようかなあ」
「えー、そんなのあり?」
「当然よ。覚悟しなさい」
さっきのてれくささや恥ずかしさをとりつくろうように、ボクは必要以上におおげさにはしゃいだ。
「なあんて、ボクもひとの事言えないんだ。やっぱり遅れたから」
「なんや、お互いさまか」
「そうね。今朝妹とケンカしてね、ボクはそれで時間をずらせて来たの」
「ケンカで負けて?」
「そういうわけじゃないけど。とにかくうるさいのよ、チビのくせして」
ボクはジャングルジムにつかまって、カズヤを見上げながら早口でまくしたてた。聞き役がいると、誰かに聞いてもらいたかった不満が、次々と口をついて出て来ちゃう。
「もうついて来ないでなんて言うんだよ、ボクに向かって。中学生にもなってラジオ体操に通うような姉さんがいると、友達の手前恥ずかしいんだって。もう頭きちゃった」
「ハハッ、その妹っていくつ?」
「こないだ七つになった」
「じゃあ、えーと、一年生か」
「そう。でもませた事ばっかり言うのよ。最近はボーイフレンドの話ばっかり。それもわざわざボクの前で、なんかあてつけみたいにして」
「おいおい、そんな小さな子相手に対抗意識燃やすなよな」
「だってナマイキだと思わない? あの子ついこないだまで、大きくなったらお父さんのおよめさんになるー、なんて言ってたんだよ」
「ふうん」
「そうだ、そのお父さんにも面白い話があるの。いつかテレビを見てたらね、ドラマだったんだけど、その中でガンコそうな父親が若い男に向かってね、うちの娘は絶対やれん! なんてどなる場面があったのよ。たまにあるでしょ、そういうのって」
「うん」
「それでね、それを見ていたうちのお父さん、いきなりボクに向かって言うの。父さんは誰が相手でも絶対こんな事は言わないから安心しろ、なんてマジメな顔で。その時ボクはまだ小学生だったのよ」
「想像力があるんやな」
そう言ってカズヤは靴をポーンと飛ばした。なんかちっともうけなかったなあ。みすずとみえは大笑いしてくれたのに。やっぱり男の子には、こういう話の面白さは分かんないか。それとも、ボクの長いおしゃべりにウンザリしたのかな?
「しまった! こんな事してられないんや」
カズヤは慌てたようにジャングルジムから降りて、さっき飛ばした靴をはいた。
「僕もう帰るから。バイバイ」
カズヤは走って帰っちゃった。どうしてジャングルジムくぐりの前に口をきかないのか、たずねようと思ってたのに聞きそびれちゃったな。それに今日に限って遅れて来たり急いで帰ったりするのも、どうしてだろう。
カズヤには、まだまだ分からない事がいっぱいある。けれども今では、昨日のように何もかも聞きたいっていう気がしないのは、どこかとらえどころのない不思議な面を、ずっと持っていてほしいと思うから……。
ただ、あと一つだけ聞いてみたい事がある。あんなはっきりしない事に、それほどまでに熱中する理由は何? でもたとえこんな質問をしたところで、やっぱりはっきりした答えは期待出来ないな。きっとカズヤ自身にもよく分からないだろうから。たぶんそれは、はっきりと言葉になるようなものじゃないと思う。妹とケンカしながらも、ボクが毎朝ここへ来る理由と同じように。
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