星の所有
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My Stars system
北海道初山別村のしょさんべつ天文台に、My Stars systemという制度があります。
My Stars systemについて
夜空に輝く星の数は無数ですが、その全てに名前がついているわけではありません。名前がついているのは概ね5等級以上の星、数千個にすぎません。一方、しょさんべつ天文台で見ることができる星は概ね17等級以上、約1億個。それらには認識番号がついているだけです。この名もない星を個人で所有してもらい、名前をつけてもらおうと、初山別村は考えました。そうしてスタートしたのが“My Stars system”です。もちろん、星の所有が公式に認められたり、つけた星の名前が学術的に認められたりすることはありません。しかし、本村においては、その星はまぎれもなくあなた個人の星であり、かつ、あなたの星として永遠に登録・保管されます。
恋人へのプレゼントにと考えている方がいるかもしれません。あるいは、生まれたばかりのお子さんの星をと考えている方も、ひょっとしたら、遊び心で星を所有し、冗談半分の名前をつけようとしている方がいるかもしれません。もちろん、それでいいのです。自由にネーミングしてください。
(天文台パンフレットより)
自転車での日本一周の途中にここへ立ち寄った僕は、旅の記念にと愛車の名前で申請し、そして半月後、九州を走っている頃にその星は登録されました。
★ Green Sheep ★ |
SAO番号 |
165079 |
等級 |
7.10 |
B−V色指数 |
0.10 |
スペクトル分類 |
A3(7500〜10000K) |
固有運動(赤経方向) |
0.03秒/年 |
(赤緯方向) |
−0.01秒/年 |
距離 |
391光年 |
赤経 |
22h26.768m |
赤緯 |
−11°13.256’ |
所属星座 |
みずがめ座 |
天文台会報への投稿文
「Green Sheep」
その前日、僕はすでに一つの目的を達成していた。
沖縄の最果て八重山を発ち、上陸した鹿児島からさらに五千キロを走り、そしてついに最北の宗谷岬に至った。それがつい前日の事だ。
自転車による日本縦断を果たした僕は、満ち足りた気分でゆっくりとペダルを踏みしめていた。あとは小樽からフェリーででも帰ればいい。
サロベツの原野がどこまでも続く。海の向こうには利尻が浮かぶ。風はゆるやかな追い風。
やがて通りかかった初山別という地名に、聞き憶えがある気がした。
そう、思い出した。この村では、一つの星を記念に所有する事が出来るという。記念の星を一つ、か……。目的達成の直後に通りかかったのも、何かの縁だろう。
僕は天文台へ続く道にハンドルを向けた。
館内の展示物を眺めながら、僕は星の名前に頭を悩ませた。
そのまま素直に、シンイチと自分の名を付けるか。でも生きながら星になるというのも……。
しかしそういえば昔、星の名で呼ばれた事もあった。サターン(土星)と。輪をかけた〇〇という意味で……。
またモンゴルでも僕は、シンイチをもじってサンチルと呼ばれていた。これも偶然土星の意味だ。僕は時々、ドゴートイオドと自己紹介した。「輪を持つ星」という意味のほか、冗談半分に「自転車に乗るスター」という意味も掛けて。
自転車、そうだ自転車だ。自転車による目的達成の記念なら、やはり自転車の名を付けるべきだろう。
申し込み用紙には、Green Sheepと記入した。
この呼び名のきっかけは、自転車仲間の小学生兄弟との出会いだった。
初めて出会った時、その二人はこう自己紹介した。黄色い自転車の兄はイエロータイガー、青い自転車の弟はブルースネーク。聞けば二人は、トラ年生まれにヘビ年生まれという。なるほど。
ヒツジ年の僕は、だからグリーンシープと自己紹介した。
あの時以来、緑のフレームの愛車はもちろん、乗り手としての僕もまた、グリーンシープと呼ばれている。
そして今日からは、ある一つの星も。
二日後、僕は札幌で、すり減ったタイヤを交換した。そしてフェリーに乗るつもりだった小樽を通り過ぎ、そのまま南へ向けて走り続けた。日本一周という、新たな目標を達成するために。
もしかしたらその熱意は、同じ名を持つ星によってもたらされたのかもしれない。
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